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エンド・オブ・ザ・ロード [パタゴニア]

10/28|47日目
8時起床。パンとコーヒーだけの朝食を取りながら今日の予定を実現するためにバスの時刻を調べる。今日は午前中にマルティアル氷河 Glaciar Martial 、午後にティエラ・デル・フエゴ国立公園 Parque Nacional Tierra del Fuego をまわる予定。ウシュアイア観光のメインディッシュとも言える場所を1日でまわるとあって、昨晩スザンヌに「絶対無理よ」と散々反対された。スザンヌがトイレに行っている間に体育教師クリス・カウズが「You can do it !」と片目を瞑って背中を押してくれたこともあり、行くことに決めた。明日の午後には空路エル・カラファテに向かうこともあり時間はもうないのだ。
ティエラ・デル・フエゴ国立公園にはアラスカから続くパン・アメリカン・ハイウェイの終着点がある。旅人から「世界の果て」、「エンド・オブ・ザ・ロード」と愛情を持って呼称されるこの場所は、この52日間の旅のクライマックスになるかもしれない。

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まずはマルティアル氷河に向かうことにする。もぐりのミニバンに乗り込み、氷河へと続くリフト乗り場へ。リフト乗り場で少し時間を潰し、リフトの稼働を待つ。
マルティアル氷河とティエラ・デル・フエゴ国立公園、共に剥き出しの自然をまわることになる。スザンヌの言うことには確かに一理あって、日が出ているうちの10時半から19時程度までに観光を終えないといけないのだ。

10時半の稼働に併せて観光客がリフト乗り場に列を作る。高所恐怖症で少し緊張するが前に並んでいるよぼよぼのおばあちゃんを見て勇気が出す。雪のないリフトは落ちる場所が丸見えでおっかないものですが、怖さや寒さもひっくるめて、身体も脳みそもスッキリ気持ち良い。背後を振り向くとウシュアイア湾 Bahia Ushuaia を抱える町並が見える。

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リフトからの道程は完全な雪山登山。数分歩くと傾斜は厳しくなり、真っ白な雪と剥き出しの岩場を交互に登ることになる。けっこう皆さん気楽な格好で登っていたりする。「山なめんな!」みたいな気持ちも湧き上がりますが「写真撮ってあげますよー」なんて言われてニンマリ。

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先頭グループを登っていたため、ルートがいまいち良くわからない。前後の人とガイドブックの写真にある氷河の角度や形を元にルートを想定しながら進んでゆく。ここにある氷河は、巨大な白いテーブルのようないわゆる氷河然としたものではなく、山を下る巨大な河が凍り付いたもののようだ。1時間ほどかけて登り切っても「これ氷河?」「あの辺が写真と同じかも」みたいなやり取りが発生してしまう。

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時折吹く冷たい風に身体を震わせながらチョコレートなどを口に含んで休む。「さて」と下る準備をしていると昨日のクルーズで一緒だったパウラが登ってくる。再会を喜んでいるとジョナサン・プライス似のお父さんも現れる。パウラはフリースしか着てなくて寒い寒い言っている。「山なめんなよ!」
3人で一緒に下ってゆくとお母さんにも途中で遭遇。リフトまでご一緒させていただき、再度別れの手を振る。

リフト乗り場近くで30分ほど散歩をし、バスの迎えが来そうな時間に合わせてリフトに乗り込む。1時過ぎ。バスは来ない。いっこうに現れそうもないので別のミニバスに同乗させてもらう。町に戻り昼食のサンドイッチを買うとティエラ・デル・フエゴ国立公園行きのバスに乗り込む。町の外れで大きな観光バスに乗り換えると公園へ。運転手とガイド、乗客は自分ひとり。少し眠る。

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国立公園の入り口でチケットを購入し、キャンプ場やレストランなどがある公園内の施設でバスを降りる。バスの運転手が7時までにここに戻るようにと声をかけてくれる。ただいま3時過ぎ。あいにくの曇り空。キャンプ場はひとつふたつテントが見える程度で寒々しい雰囲気。レストランも閑古鳥が鳴いている。カウンターでお弁当用に肉厚のチョコクッキーを3枚とミネラルウォーターを購入。プチハイキングの準備が整うとさっそく国道3号線を下るルートをスタート。エンド・オブ・ザ・ロードまでは5kmほどの道のり。ロカ湖 Logo Roca からラパタイア湾 Bahia Lapataia に注ぐ水辺の道を歩き始める。

マルティアル氷河ほどは寒くないだろうと思っていたけれどここも寒い!しかも歩き始めると小雨が降り始める。ひえ〜。冷たい雨はポツポツと雨足を強め、歩き始めて直線数百メートルで本降り。雨を凌ぐ場所も雨具も何もない。
木橋も越えて少し行くと対向車。車が通り過ぎるのをなんとなしに待っているとツアージープの中には体育教師夫妻。笑顔で手を振ってくれている。あっという間に去ってゆく。雨は降り続く。
追い抜いてゆく車に道を譲るたびに惨めな気持ちは積み重なってゆく。ここは晴れたら素晴らしいところなのでしょう。でもこんな日に徒歩で訪れている人なんて一人もいない。チノパンはびしょ濡れで、それに風が当たってとても寒いんです。

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パタゴニアならではの淡い緑の下草を踏みしめ歩いていると視界の片隅を野ウサギがぴょんぴょんと跳ねている。野ウサギは逃げるでもなく雨を気にするでもなく。ただし近づき過ぎると近づいた分、ピョンと遠ざかってしまう。水辺を歩いている様々な野鳥はウサギ以上に臆病で、人間に対して充分に距離を取っている。箱庭のように美しい地形の景色に出くわし、カメラを取り出すと雨がより一層強まる。
俺はいったいこんなところで何しているのだろう。想像も付かないほどの広さの国立公園を濡れ鼠状態で歩いているのは本意なのか?もう寒くて冷たくてしんどい。若干泣けてきた。

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車道を逸れて、トレッキングルートに道を切り替える。歩き始めるとその世界の美しさに息を呑む。墨のように黒く反射した池。池から幾本も樹木が姿を現し、不思議な形に視界を形作る。白い樹木に薄緑の綿毛のような寄生植物が張り付いている。その不思議な奥行きや怪しげな空間の重なり合いに目を奪われる。
ちょっとした緑の広場のようなところで冗談みたいに野ウサギが10匹ぐらい寛いでいる。美しいところだ。気付けば雨は止んでいた。

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湿地を抜け、泥濘に足を取られる。乾いた空気がみるみるチノパンの水気と体温を奪ってゆく。相変わらず手は悴み、身体は芯から冷え込んでいたけれど雨が止んだことで気分は全然良くなった。次第に脳内がドーパミン過剰になっていったのだと思う。「何としてもエンド・オブ・ザ・ロードに行ってやるぞ〜!」とテンションが上がってしまって急に走り出した。何故なら人はそれぞれのスピードで走って良いから。「うぉー!」みたいな感じになっちゃって丘を飛び越え、下り坂を突き抜け、美しい緑のトンネルが後方へ気持ちよく流れてゆく。首を窄めるだけで張り出した枝をやり過ごし、雨水が道を沈めてしまっていてもウサギばりにピョーンと飛び越えるのだ。トレッキングシューズの硬いソールが小気味良く地面に衝撃を与える。たとえば誰かが先を歩いていたらびっくりして腰を抜かしたかもしれない。何故ならそこは自由なスピードで走り抜けるような道ではないから。でもこんな日にこのルートを行く人は誰一人としていないのだ。いくつかの森を突き抜けると突如眼前に海が現れる。ラパタイア湾だ。いよいよだ。トレッキングルートから国道3号線に合流し、導火線の残りはわずかだ。

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エンド・オブ・ザ・ロード。感じの良いアルゼンチンの若者が写真を撮ってくれる。車で来た彼らは「歩いてきたの?」と目を丸くする。俺だってアルゼンチン人だったら車で来るよ。立て看板の向こうは木橋の遊歩道を辿って海辺を歩けるようになっている。道に沿ってグルッと一周する間ジワジワと感情が昂ぶってくる。なんだか良くわからないけど非常に感動していて、この旅が終了したんだなと思えた。
戻ってくると大量のじいさんばあさんを乗せた巨大な観光バスがやってくるのが見える。タイミング良くエンド・オブ・ザ・ロードを去り、トレッキングルートへ引き返す。

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あんなに濡れていた服が冷たい風に吹かれて乾ききってしまった。この寒さわかってもらえるでしょうか。走って身体を温め、ウサギの広場で歩みを緩める。iPodでジェリー・マリガンあたりのロマンチックなジャズを聴きながらとても気分良く歩く。
行きは寄り道せずに来たので帰り道は様々なトレッキングルートをぐるぐる回りながら歩く。そのトレッキングルートで目にする光景は本当に素晴らしいのです。少し歩けば息を呑み、写真をパチリ。また少し歩けば写真をパチリ。出まくりのドーパミンも手伝ってか、なぜか自分の顔写真もたくさん撮ってしまったようである。

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たくさん写真を撮ったはずなのですが残念ながら俺のしょっぽいカメラではあの複雑でパノラマな世界は切り取ることは出来なかった。だけれども美しい景色とその感情を焼き付ける特殊なチャンネルを使用したので今でもすぐにあの時を思い出せる。
地球は大丈夫だと思える。大丈夫じゃないかもしれないけど。アマゾンやパンタナールでも思ったんだけど。

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7時ぴったりにバス停に戻る。タバコを3本ほど吸った頃、ワゴンが現れる。ここで働いている人々5人と共にワゴン車に乗り込む。ワゴン車内では従業員の女の子達がレストランの会計処理をを行っている。疲れから眠り込んでしまう。

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ウシュアイアの町に戻る。ワゴンを降りると寒さが身にしみる。こんなに寒かったっけ?初日に行ったステーキ屋に行き、サーロインを頼む。空腹も手伝ってぺろりと食べるのですが温まった身体も店を出るとすぐに消え去ってしまう。
宿に戻るとUK5人組みが温かく迎えてくれる。ジッとしているとブルブルと身体が勝手に震えてしまうので熱いシャワーを浴びる。シャワー後、昨晩と同じようにgrassというガンジャ売買カードゲームに合流。今日の出来事を聞いて体育教師クリスはまるで何かを成し遂げたかのように喜んでくれる。
ビールをひたすらご馳走してくれて零時まで過ごす。べろべろに酔っ払って眠る。

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